さかい蔵人・Cs’デジタルアートワークス

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言葉銀行(ことのはぎんこう) あなたの言葉、預かります。

「番号札148番のお客様」
 銀行員の女性に呼ばれ、白髪混じりの頭をした初老の男性が振り向く。
 男性は手にした通帳を銀行員に手渡し、少し困った様な複雑な表情をした。
「・・・あぁ・・・明日は・・・30年連れ添った妻の誕生日でね。何か、言葉を引き出したいんだが・・・」
銀行員の女性は、
「かしこまりました、そちらの御席にて少々お待ちください」
と、カウンターの奥に消えていく。
 数分後、再び番号を呼ばれ、男性はカウンターに向かった。
 銀行員は男性に通帳を返却し、微笑みながら、
「ではお客様」 
 と話を切り出した。
「おはよう、と、ただいまが11年。髪切った?と、その服似合うね、が18年。素敵だね、と綺麗だね、が19年。いつもありがとう、が20年、こちらに預けたままになっています。」
 それから・・・と銀行員は続ける。
「いつまでも一緒にいよう、と、ずっと君の料理を食べていたいんだ、は最初のプロポーズで使ったきりですし、ずっと君の料理を食べていたい、とおっしゃった割には・・・料理、おいしいねは一回しか使っていません。こちらは30年で満期を迎えておりまして、利息もついていますけれど、いかがいたしましょう?」
「そんなに・・・あったのか・・・」
男性は目を真ん丸くして驚き、しばらく何かを考えた様子の後、
「全部、引き出していくよ。利息分も全部」
照れくさそうに笑顔を浮かべ、男性はそう答えた。
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